2026.06.18 — 事例
安全キャビネットの定期検査と除染作業
— 現場では何を見ているか
安全キャビネット(BSC)の年次定期検査とVHP除染の現場をご紹介。HEPAフィルターリーク試験、風速測定、気流可視化など、現場で何をどのように確認しているかを解説します。
安全キャビネットの「見えない劣化」
安全キャビネット(BSC)は、微生物や有害物質を取り扱う研究室に欠かせない装置です。 HEPAフィルターによる清浄気流で作業者と試料の双方を守るという重要な役割を担っていますが、 フィルターの経年劣化や気流バランスの変化は外見からはわかりません。
設置して終わりではなく、定期的に性能を検証し、必要に応じて是正する——これが安全キャビネットを安全に使い続けるための基本です。 本記事では、実際の定期検査と除染作業の現場で「何を、どのように見ているか」をご紹介します。
今回の現場
今回ご依頼いただいたのは、バイオベンチャー向けのインキュベーション施設です。 スタートアップ企業を対象としたレンタルラボ併設の支援施設で、複数の入居企業がそれぞれ独立した実験室を使用しています。
弊社で納入したHaier Biomedical社製の安全キャビネット(クラスII A2タイプ)について、 複数室分の年次定期検査と、検査に先立つ除染作業をあわせて実施しました。 入居企業ごとに使用状況が異なるため、1台ずつ個別に状態を評価していきます。
なぜ点検の「前」に除染を行うか
定期検査ではキャビネット内部やHEPAフィルターの周辺に作業者が接近します。 使用状況によっては内部に微生物や有害物質が残留している可能性があるため、 作業者の安全を確保するうえで、検査前の除染は重要な工程です。 今回は蒸気化過酸化水素(VHP: Vaporized Hydrogen Peroxide)を用いた除染を実施しました。
VHP除染の流れ
まず、キャビネットの開口部を養生テープやシートで密閉し、過酸化水素をホットプレートで蒸気化してキャビネット内部に充填します。 濃度センサーで内部の過酸化水素濃度をリアルタイムに監視しながら、所定の濃度に到達させます。 到達後は規定時間にわたって濃度を保持し、除染効果を確保します。
保持工程が完了したら、ガス分解器を作動させて残留ガスを安全なレベルまで低減し、作業者がキャビネット内にアクセスできる状態にします。
除染の効果は、ケミカルインジケーター(CI)の発色と、バイオロジカルインジケーター(BI)の培養結果によって確認します。 BIには芽胞形成菌を用いており、所定の培養期間を経て菌の発育が認められなければ、除染が適正に完了したと判断します。
除染条件の詳細(濃度・保持時間・使用薬剤量など)は、対象となるキャビネットの容積や使用状況によって異なります。 具体的な条件設定についてはお問い合わせください。
ガス分解器 TBL-150
VHP除染では、保持工程のあとに残留する過酸化水素ガスを速やかに分解・除去する必要があります。 弊社では、この工程にガス分解器TBL-150を使用しています。
TBL-150の特長は、対象とするガスの種類に応じて充填材を変更できる汎用的な設計にあります。 今回の過酸化水素除染では、充填材に活性炭とシリカゲルを組み合わせることで、過酸化水素ガスを効率よく吸着・分解することができました。
ホルムアルデヒドを用いた除染では白金触媒を充填材に使用するなど、対象ガスの化学的性質に応じて最適な充填材を選定します。 同じ装置本体で異なる除染剤に対応できるため、施設の運用に合わせた柔軟な使い方が可能です。 対象ガスや設置環境に応じた充填材の選定については、お気軽にご相談ください。
自動制御システムによる省力化
VHP除染のオペレーションでは、濃度センサーの値を確認しながら、蒸気発生器や送液ポンプのオン・オフを適切なタイミングで繰り返す必要があります。 従来、この作業はすべて手動で行っており、保持工程の間は作業者がつきっきりで濃度を監視する必要がありました。
今回の作業では、弊社で開発中の自動制御システムを試験的に導入しました。 目標濃度への到達判定と保持制御を自動化することで、各装置の正常動作確認は引き続き人が行うものの、 オペレーション全体の負荷を大幅に軽減することができました。 この自動制御技術は、現在も改良を重ねており、将来的な製品化を目指しています。 ご関心のある方はお問い合わせください。
定期検査の項目
除染が完了したら、キャビネット本体の性能検査に入ります。今回実施した主な検査項目をご紹介します。
HEPAフィルターリーク試験
エアロゾル発生器で上流側に試験粒子を発生させ、フィルターの下流側でパーティクルカウンターを用いて粒子の透過を測定します。 循環フィルターと排気フィルターのそれぞれについて、フィルター面やシール部を走査し、リーク(漏れ)がないことを確認します。 合格基準は、透過率が0.01%以下であることです。
吹出し風速・流入風速の測定
校正済みの風速計を用いて、キャビネット内部の下降気流(吹出し風速)と、前面開口部から内部に吸い込まれる気流(流入風速)を複数の測定点で計測します。 それぞれの平均値が規定の範囲内にあること、また各測定点のばらつきが基準値以内であることを確認します。 気流のバランスが崩れると、作業空間の清浄度や封じ込め性能に直接影響するため、風速測定は検査の中でも特に重要な項目です。
作業空間の清浄度測定
パーティクルカウンターを用いて、キャビネット作業空間内の浮遊粒子数を測定し、清浄度クラスを判定します。
気流可視化(スモークテスト)
超音波霧化装置で発生させた霧を用いて、キャビネット内部の気流パターンを目視で確認します。確認するポイントは複数あります。
下降気流が作業空間内を滑らかに流れているか。前面開口部の内側で気流が適切に吸い込まれているか。 パネルの縁やレール部から外部への漏出がないか——これらを順に走査しながら、気流に異常がないことを確認していきます。 数値では捉えにくい気流の乱れや局所的な漏れを発見できるため、風速測定と並んで重要な検査項目です。
その他の確認事項
蛍光灯・殺菌灯の点灯確認、送風機の異音・振動チェック、前面ガラスの開閉動作なども検査項目に含まれます。 これらは日常的に確認できる項目ですが、年次検査の際にあらためて体系的に確認します。
販売から点検・除染まで一貫して対応
弊社では、Haier Biomedical社製の安全キャビネットの販売に加え、 納入後の定期検査・除染作業までを一貫して承っております。
キャビネットの構造や特性を理解したうえで検査・除染を実施できることが、販売と保守を同じ窓口で対応するメリットです。 また、除染に使用するガス分解器 TBL-150も自社製品であるため、対象ガスや施設の条件に合わせた柔軟な対応が可能です。 新規導入のご相談から、既存キャビネットの定期検査・除染のご依頼まで、お気軽にお問い合わせください。
安全キャビネットの定期検査・除染作業についてご相談を承ります。
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